Web制作やシステム開発の受託案件において、「着手時に総額の50%を請求し、納品完了時に残りの50%を請求する」という分割請求(分割入金)の契約条件は、フリーランスの資金繰りを守るための基本設計です。
しかし、マネーフォワード クラウド請求書とクラウド会計を使ってこの分割請求を処理しようとした際、次のようなトラブルに直面したことはないでしょうか?
- 「見積書をベースに残金請求書を作ったら、なぜか総額分がもう一度計上されて売上が二重計上されてしまった……」
- 「着手金を請求書で作ったら、まだ納品前なのに全額が当月の売上として計上されてしまった」
- 「請求ソフト側の一覧と、会計ソフト側の売掛金・売上のステータスが食い違って管理画面がぐちゃぐちゃ」
今回は、従業員ゼロで受託案件を回すフリーランスに向けて、分割請求で起きるステータス乖離や二重計上の原因、そして取引先の要望(①最終的に総額マイナス相殺の請求書を出す場合/②最初から分割請求書を2通出す場合)に応じた税抜会計での具体的な手作業手順を徹底解説します。
ポイント
- 見積書からの単純変換がミスの元: 見積書(総額100万円)から直接「請求書に変換」を複数回行うと、会計側に100万円の売上仕訳が重複連携され、二重計上が発生します。
- 着手金は税務上「全額が前受金」: 役務提供前の着手金は課税売上にあたりません。税務・簿記の基本に忠実になるなら、消費税を含めた全額を「前受金(負債)」として管理するのが最もシンプルです。
- 相手の希望に応じた2つの運用ルート:
- パターン①(総額相殺形式): 見積書を変換・複製し、残金請求時に「着手金マイナス相殺行」を手動追加。MF請求書の標準連携をフル活用するルート。
- パターン②(分割請求書形式): 50万円(+税)の請求書を2通発行。納品月に会計側で「前受金振替仕訳」を手動入力し、正しい売上高に整えるルート。
なぜクラウド請求書で「分割請求」が崩壊するのか?
① 「見積書 → 請求書への変換」仕様の勘違い
マネーフォワード クラウド請求書の見積書画面にある「請求書に変換」は、見積書の明細をそのまま100%コピーした請求書を1通生成する機能です。
総額100万円(税抜)の案件において、着手金で50万円(税抜)を請求した後、納品時に「残金用にもう一度変換ボタンを押せばいいだろう」と操作すると、請求書ソフト側には「100万円の請求書」がもう1通できてしまいます。
クラウド請求書を発行するとクラウド会計側へ売上仕訳が自動連携されるため、「着手金50万 + 残金100万 = 合計150万円」の売上が帳簿に計上され、売上が過大計上されるという事故に直面します。
② 「着手金」を売上として自動連携させてしまう罠
クラウド請求書で「品目:着手金 / 金額:500,000円」として単純に請求書を発行すると、会計ソフト側はデフォルトで以下のように仕訳を作ってしまいます。
(借方)売掛金 550,000円 / (貸方)売上高 500,000円・仮受消費税等 50,000円
しかし、着手金の段階ではまだWebサイトを納品しておらず、役務提供は完了していません。本来は負債であるべき「前受金」が「売上高」になってしまうため、月次の損益計算書(PL)が実態よりも膨らんでしまいます。
③ 請求書管理画面と会計帳簿の「ステータス乖離」
着手金と残金を別々の請求書として発行した場合、マネーフォワード クラウド請求書上は「別個の2通の独立した請求書」として扱われます。
これをそのまま会計ソフトへ流し込むと、本来は1つの案件であるにもかかわらず、会計側には「2つの別々の売上」が立ち上がります。後から会計側だけを修正しようとしても、請求書ソフト側の案件管理ステータス(総額に対する請求進捗や残額)とは連動しないため、「請求ソフト上のステータス」と「実際の会計帳簿の残高」が食い違い、今どの案件がどこまで処理されているのかが管理画面上で追えなくなってしまうという混乱が発生します。
2つの運用パターン別・具体的な手作業手順
契約条件やクライアントの希望に合わせて、以下の2つのパターンから選択して運用します。どちらの方法でも税抜経理方式(仮受消費税等の分離)で綺麗に帳簿を合わせることができます。
【共通の前提条件】
- 案件:Webサイト制作一式
- 総額:1,000,000円(税抜)/ 消費税10%:100,000円 / 税込総額:1,100,000円
- 支払条件:着手時50%(550,000円・税込)、納品完了時50%(550,000円・税込)
パターン①:最終的に「総額(100万円+税)相殺」で請求書を出したい場合
【向いているケース】 クライアントから「最終請求書を見れば、総額いくらの案件で着手金がいくら引かれ、残金がいくらなのか一目で分かるようにしてほしい」と求められる場合。
必要になる手作業とフロー
- 手順1(見積書作成):
- 総額100万円(+税10万円)の見積書を1通作成。備考欄に「着手時50%、納品時50%」と記載。
- 手順2(着手金請求書の発行と手作業修正):
- 見積書から「請求書に変換」を実行。生成された下書きの金額を税抜500,000円(税込550,000円)に手作業で書き換えて発行。
- 【会計側の手作業】 会計ソフトに自動連携された仕訳を開き、貸方科目を「売上高」から「前受金(対象外)」に手動修正して登録。
| タイミング | 借方(左側) | 貸方(右側) | 仕訳の説明 |
| 前受金の請求書から自動変換した後 | 売上高 500,000円 借受消費税 50,000円 | 前受金 550,000円 | 【手作業】自動変換された売上高500,000円(税抜)を前受金に振り替える |
| 前受金入金時 | 普通預金 550,000円 | 売掛金 550,000円 | 口座着金明細と残金の売掛金を消込。 |
- 手順3(納品時・残金請求書の発行手作業):
- 元の見積書から再度「請求書に変換」を行うか、新規請求書を作成し、明細を手作業で2行にする。
- 1行目:Webサイト制作一式 ➔ 1,000,000円(税率10%)
- 2行目:着手金受領済分(相殺) ➔ -500,000円(税率10% または 対象外)
- 請求合計額:550,000円(税込残金)
- これを発行すると、会計ソフト側には納品月に総額100万円の売上と仮受消費税等が正しく自動連携されます。
- 元の見積書から再度「請求書に変換」を行うか、新規請求書を作成し、明細を手作業で2行にする。
| タイミング | 借方(左側) | 貸方(右側) | 仕訳の説明 |
| 納品・残金請求時 | 売掛金 550,000円 前受金 550,000円 | 売上高 1,000,000円 仮受消費税等 100,000円 | 【手作業】請求書のマイナス行により、納品月に総額100万円の売上と仮受消費税等を一括計上。着手金(前受金)を全額相殺し、残金55万円を売掛金とする。 |
| 残金入金時 | 普通預金 550,000円 | 売掛金 550,000円 | 口座着金明細と残金の売掛金を消込。 |
パターン②:請求書は完全に「分割(50万円+税×2通)」で出したい場合
【向いているケース】 クライアントの社内稟議の都合上、「100万円の請求書ではなく、55万円(税込)と記載された独立した請求書を2通欲しい」と指定された場合。
必要になる手作業とフロー
- 手順1(着手金請求書の発行):
- 金額500,000円(+税50,000円=550,000円)の請求書を発行。
- 【会計側の手作業】 パターン①と同様、自動連携された仕訳の貸方を「売上高」から「前受金(対象外)」に手動修正。
| タイミング | 借方(左側) | 貸方(右側) | 仕訳の説明 |
| 前受金の請求書から自動変換した後 | 売上高 500,000円 借受消費税 50,000円 | 前受金 550,000円 | 【手作業】自動変換された売上高500,000円(税抜)を前受金に振り替える |
| 前受金入金時 | 普通預金 550,000円 | 売掛金 550,000円 | 口座着金明細と残金の売掛金を消込。 |
- 手順2(納品時・残金請求書の発行):
- 着手金請求書を「複製」し、品目を「残金分(50%)」として税抜500,000円(税込550,000円)で発行。
- クラウド請求書からは
(借)売掛金 550,000円 / (貸)売上高 500,000円・仮受消費税等 50,000円のみが自動連携されます。
- 手順3(納品月の売上・前受金振替の手作業入力):
- 【会計側の手作業】 このままでは当期の売上が「50万円」しか計上されず、前受金55万円が負債に残ったままになります。そのため、納品月の月末日付で、会計ソフトの「振替伝票入力」から以下の手動仕訳を1本追加します。
| タイミング | 借方(左側) | 貸方(右側) | 仕訳の説明 |
| 納品・残金請求時 (自動連携分) | 売掛金 550,000円 | 売上高 500,000円 仮受消費税等 50,000円 | 請求書ソフトから連携された残金50万円分の仕訳をそのまま登録。 |
| 納品月末 (手動振替仕訳) | 前受金 550,000円 | 売上高 500,000円 仮受消費税等 50,000円 | 【手作業】 振替伝票入力にて手動登録。着手金(前受金)を取り崩し、残りの売上高50万円と消費税を計上して総額100万円の売上を完成させる。 |
| 残金入金時 | 普通預金 550,000円 | 売掛金 550,000円 | 口座着金明細と残金請求書の売掛金を消込。 |
※ツールの仕様:自動連携で「仮受消費税等」が切り出されるケース
MFクラウド請求書で税率10%を指定して請求書を発行すると、会計ソフトへの自動連携時にシステムが税率を読み取り、初期状態で以下のように「仮受消費税等」を分離した仕訳を自動起票することがあります。
(借)売掛金 550,000円 / (貸)前受金 500,000円・仮受消費税等 50,000円マネーフォワード側の自動サジェストでこのような仕訳が作成された場合でも、前受金と仮受消費税等の合計は「550,000円(負債)」であり、売上高(収益)には算入されていないため、税抜会計の大枠や損益計算書を狂わせることはありません。原則通りの処理を行いたい場合は、会計側の連携仕訳で貸方を「前受金 550,000円(対象外)」に手動修正して確定させます。
まとめ
受託制作の分割請求で起きる二重計上やステータス混乱は、取引先の要望に合わせて「①総額相殺の請求書を作るか(残金請求書でマイナス行を入れる)」、あるいは「②分割の請求書を2通出すか(納品月に会計側で前受金振替を手入力する)」という運用ルールをあらかじめ決めておくことで完全に防ぐことができます。
ツールの自動連携の仕組みと手作業が必要なポイントを整理し、月末の請求管理をスマートに自動化しましょう。
次回テーマ:月末納品で請求書が翌月…売上計上日はどっち!?発生主義の落とし穴
分割請求の作り方をマスターしても、次に必ず迷うのが「納品完了日(役務提供日)と請求書発行日の売上計上基準のズレ」です。
「検収完了は3月31日、請求書発行と送付は4月5日……この売上は3月分?それとも4月分?」
特に年度末(決算月)をまたぐと税務署から指摘されやすい「発生主義(売上計上基準)」のルールと、マネーフォワードでの日付設定のベストプラクティスを分かりやすく解説します!

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